キャリアのチャンスに学歴は一切関係ない|思いを積極的に発信し常に「チャレンジモード」で臨もう

エイスリー  代表取締役 山本 直樹さん

Naoki Yamamoto・高校卒業後、ベーシストを目指して上京。音大を卒業後、パイオニアLDC(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社)で宣伝プロモーター、ホリプロでアーティストマネージャーを担当。その後デジタル領域に可能性を見出し、DGメディアマーケティングへ。2008年に総合キャスティング事業を手がけるエイスリーを設立

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夢を叶えるには「強い意志を持って周りに公言すること」が肝心

「キャリアを切り開くチャンスは誰にでもある。学歴がなくてもまったく問題ない」。これが皆さんに一番伝えたいメッセージです

有名大学出身の優秀な人でなければ、経営者にはなれない」と思っている学生の方も、中にはいるのではないでしょうか。しかし、私は工業高校・短期大学卒業ではありますが、経営者として会社を作れています。

高校時代には生徒会長(学園祭でバンドコンテストを立ち上げたい一心で立候補)をしていましたが、その頃すでに自分はエリートにはなれないキャリアの王道を外れたという自覚を持っていました。それでも「大好きな音楽の世界で仕事がしたい」というエネルギーだけで、キャリアを歩んできました。

夢を実現させるために一番効果的な方法は、「これをやりたい、こうしたい」という強い意志を持ち、それを周りに公言しまくること。私はこのやり方で、やりたいことの7割は叶えられてきたように思います。

ただ強く思っているだけでは不十分で、会う人会う人に自分のやりたいことを発信していくことが肝心です。そのように周りに公言していると自分の行動も変わってきますし、チャンスをくれるキーパーソンの目にも止まることができます。

キャリアにおける夢ややりたいことがある方は、ぜひ「強い意志を持って諦めない」「周りに公言する」という2点を心がけてみてください。

27歳でようやく正社員に。志望業界に対する「高い熱量」を持ち続けよう

やりたいことの7割は叶えられてきた……と述べましたが、私自身は高校時代からずっと持ち続けていた「自分の手でスター(人気アーティスト)を作る」という夢に挑戦させてもらい、そして諦めた経験があります。この夢を抱いたことが、キャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。

私の中高時代は空前のバンドブームで、同級生もかなりの数の人がバンドをやっているような状況でした。

私もベーシストとしてプレイヤーをしていましたが、高校3年生のある日、大阪城ホールへ某バンドのライブを見に行くチャンスがありました。そこで大きな会場が一体化するコンサートの雰囲気に感動し、「自分もステージに立つ人間になりたい、ステージに立てないならこういう場をつくる仕事がしたい」と決心しました。

そこからは「東京に行こう」と決意し、音大に進学。とにかく音楽業界に近づこうと考え、ありとあらゆるアルバイトを経験しました。

ライブハウスでアルバイトをしたり、ローディー(ツアーなどに帯同して楽器や機材を運ぶ役割)をしたり、レコーディング現場を覗けるような仕事をしてみたり。20代前半までは自分自身がミュージシャンになることも諦めておらず、とにかくすべての可能性に手を伸ばし続けた、そんな学生時代でした

音大卒業後はミュージシャンをまだ目指しつつ、音楽系のアルバイトをしていましたが、もっとしっかり音楽業界の第一線に飛び込もうと、あちこちのレコード会社に電話をして「日雇いのアルバイトでもいいから仕事はないか」と直接交渉をしました。これを就職活動と言っていいのかわかりませんが(笑)、インターネットが普及していない時代だったので、このような就職の手段しかわからなかったのです。

ただそうして電話をかけ続けたことで、「棚卸しの仕事で良ければあるよ」と単発の仕事を紹介してくれる方に出会うことができました。

単発バイトの後、「宣伝の仕事してみる? 」と声をかけて頂き、「やらせて下さい! 」と即お伝えしました。そして、東京と大阪の宣伝プロモーターとして4年間、名だたるアーティストの宣伝もいろいろとお手伝いさせていただきました。宣伝プロモーターは主要なメディア媒体を回って自社アーティストを売り込む仕事なので、ここで作った人脈はその後のキャリアでもずっと役立ちました。

とはいえ、当時はまだ契約社員、親会社の業績不振もあり、契約を延長出来ないと宣告されました。がっくりしましたが、会社から「ホリプロでアーティストのマネージャーを募集してるけど興味あったら会ってみない? 」と聞き、仕事自体に興味があったので「やりたいです! 」と即答。先方からも「それなら来週からすぐおいで」と迎えていただき、26歳で大手芸能プロダクションのマネージャーとなり、その後27歳でようやく音楽業界の正社員になることができました。

私のように「絶対この仕事がしたい」という志望業界がある人は、狭き門だろうとなんだろうと諦めず、正規ルートにもこだわらず、あらゆるツテを駆使して入り込んでいくんだ、という熱意が重要になると思います

熱意満々で飛び込んでくる若者を面白がってくれる先輩は、皆さんが思うより多くいるので、諦めずにコンタクトを図ってみてください。突拍子もないアプローチだとしても、あとからネタにしてもらえるので、恥も外聞も気にする必要はありません(笑)

特にエンターテインメントの世界は「好きなことだから頑張れる」という人が集まっている世界です。業界内にもいろいろなポジションがありますし、それぞれが持っている専門性はさまざまですが、入社後もずっと熱意や熱量を持ち続けていないとできない仕事であることは確かです。

音楽、映画、アニメ、舞台など自分の好きなエンターテインメントに関わる仕事がしたいという人は、それに対して「ずっと高い熱量を持ち続けられるか? 」という自問自答は一度してみるといいかもしれません

「スターを発掘して育てる」チャンスをいただいた30代。失敗から多くの気づきを得た

マネージャーになってからは、すぐに売れている人気アーティストを担当させてもらいました。28歳のときには初めて自分の手で路上シンガーを発掘して契約し、インディーズデビューをサポート。担当アーティストとは別に、自分が可能性を見出したアーティストをゼロからマネジメントする、という経験をさせてもらいました。

30歳になると、さらに大きなチャンスをいただけることに。メジャーデビューを約束したオーディションで、全国8千人の応募者からグランプリ・準グランプリを選抜し、レッスンからデビュー、その後のCDリリースやライブ展開まで様々なマネジメントを担当しました。

大きな予算もつけてもらい、文字どおり寝食を忘れて必死で2人のシンガーを売り出しましたが、両名とも芳しくない結果に終わりました。

会社に大きなチャンスをもらい、自分にできることはすべてやったけれど、それでも成果は出せなかった。路上シンガーも含め、複数のデビュープロジェクトに失敗したことにより、「自分が関わるとアーティストを不幸にしてしまうのではないか」と、すっかり自信を喪失していました。この出来事をきっかけに、社内に「お役に立てず申し訳ありませんでした」と一斉メールを送り、約8年間在籍していた芸能プロダクションを退社することとなりました。

しかし先の展望なく辞めたわけではありません。ちょうどその頃、IT系のベンチャーから、ブログなど芸能人のSNSをやらないかという話が会社に持ち込まれ始めていました。

当時は肖像権の問題や「芸能人は少し遠い存在だからこそ憧れになる」という従来の価値観から、芸能界全体がインターネットサービスへの進出には二の足を踏んでいました。しかし私自身としては「リスクはあるけれど、SNSはきっと流行るだろうな」「新しい時代になるのではないか」とこの領域に可能性を感じていました。

プロダクション時代は、SNS、デジタル領域に関しての企画を提案しても躊躇されてましたが、「それなら先にデジタル領域で力をつけて、多くのチャンスをくれた音楽業界に恩返しをしよう」。そう決意し、デジタル分野への舵を切ったことが、キャリアにおける2つ目のターニングポイントです

夢だった「原石を発掘し、スターに育てていく」という仕事を任せてもらい、そして失敗に終わったことは、私のキャリアのなかでも一番の大きな壁だったと言えるかもしれません。

退社後は「なぜ失敗したのか」についてとことん考え、人に頼らなかったことが最大の原因だ、という結論に至りました。

人に頼るのが苦手な性格なので、助けが必要なタイミングでも周りに助けをもとめることをしませんでした。「自分でできる、自分がやりたいんだ」という気持ちが強すぎたように思います。

併せて「いろいろ仕掛けるのは得意だけれど、継続しない」という自分の傾向にも気づくことができました。こうした反省や気づきは、現在の会社経営に大いに活かしています。今は自分の得意を最大限活かし、苦手な事は周りにやってもらっていて楽園になってます。

皆さんも社会に出れば、大きな壁にぶつかるタイミングがあるかもしれません。その瞬間は本当につらいと思います。私も恐怖感申し訳なさ自信喪失感など、さまざまな感情を味わいました。

しかし、学ぶという姿勢を忘れない限り、後になってその経験は必ず活きてきます。「失敗から目を背けず、原因を見出して教訓にする」ということは、つらい最中でも心の片隅で意識しておくとよいかと思います。

デジタル領域で学び直し。そして「Webに強い音楽業界人」として再スタート

芸能プロダクション退社後は、デジタルマーケティング専業の代理店へ転職しました。

しかし研修があまりに難しくて1カ月で限界を感じてしまったため、仕切り直してインターネット関連企業であるデジタルガレージの子会社に入社しました。そこで2年間、「価格.com」や「食べログ」を運営するカカクコムの営業として、Webメディアの広告開発(デジタル)と、広告営業(アナログ)の両方を学ばせてもらいました。

同時期に音楽配信ビジネスが始まり、エンターテインメントの分野でWebプロモーションをやりたい、という志が芽生えてきて、会社に提案。しかし、売上が見込めないという判断となり、「だったら自分で会社を作ってやろう! 」と起業を決意しました。

独立後はWebコンサルティングを請け負い始めましたが、「Webでどのように音楽を売り、どうやってプロモーションしていくか」について音楽業界全体が悩んでいる時期だったこともあり、レコード会社の方々から非常に重宝されたのです。デジタル領域の情報を載せたメルマガなども配信し、業界関係者の皆さんに喜んでいただきました。

法人化はしたものの、当初は「会社を大きくしよう」という野望は一切なく、個人事業主のような状態でした。1年半ほど自宅オフィスでやっていたのですが、ひとりでは手が回らなくなってアルバイトスタッフを雇い、それが3名に増え、5名に増え、10万円くらいの小さなオフィスを借りて……と非常にゆっくりと人が増えていきました。

彼らには業務委託で3年間ほど働いてもらっていましたが、さすがに社員扱いにしなくては、ということで社会保険の本を読み込み、本当の意味での会社組織にしたのが、今から8年ほど前のことです。

会社員を辞めて初めてフリーになったときは開放感が大きかったですが、今は会社や社員たちが育っていく姿を見ることを楽しんでいます。

そして意外なことで驚いているのが、昔お世話になった音楽業界の方々から「続けて頑張ってきて良かったね」「すごいね、嬉しいよ、応援している」といった言葉をたくさんいただいていることです。

以前は褒められた記憶といえば「面白い企画だね」と言ってもらえる程度で、周囲との調整もうまいタイプではなかったのですが、そのような褒め言葉をいただける人間になれたのだな……としみじみ嬉しく感じています。

失敗を恐れず行動に移そう! 自分が活躍できるフィールドの見つけ方とは

このようなキャリアを歩んできた私から学生の方に伝えたいアドバイスは、「若い頃は、とにかく思ったことをガンガンやってみるのがいい」ということです。

なぜならスピーディーに行動に移したほうが、「同じ時間(期間)内に経験できる量」が多くなるからです。そうしていろいろな経験をすることによって、「自分がもっとも力を発揮できる活躍フィールド」に近づいていくことができると私は思います。

未経験のことについてあれこれ考えるよりも、思い立ったその日にやるくらいの勢いで即時行動に移し、やってみて違ったとなれば次に進む。そのサイクルをガンガン回してみるといいと思います。

「ここだ! 」と思える場所が見つかるまで、親には心配されるかもしれませんが、自分はこうなりたいんだと宣言しつつ、しばらく目をつぶってもらっていてください(笑)。

勇気を出してチャレンジをしている人にしか出せないアドレナリンがある、というのが私の実感です。不安定な状況と引き換えなのかもしれませんが(笑)、アドレナリン全開のチャレンジモードでどんどん試していけば、そのうちに“当たり”を見つけていけると思います。

上記のように考えるのは、私が「企画力」を強みとする人間だからかもしれません。脳内では常に何かを想像したり企画したりしていますし、それを実現できたときに大きな充実感を覚えます。

マネージャーが天職ではなかったのは、人を相手にする仕事だったからかもしれない、とも今は思いますね。ビジネスや事業は、うまくいかなければすぐに調整や改善ができますが、人を別人に変えることはできません。「変えられないものを売る」というのが、私にとっては難しかったのかなと自己分析しています。

チャレンジモードでいることと併せて、これからの時代は「世の中の変化を楽しめる人」しか生き残れない気がします。これは業界を問わずです。

私自身、その時々の時代の変化を割と楽しんでこられたほうかと思いますし、最近は年齢やポジションによっても、世の中の変化の見え方は違うのだなということも実感しています。

今は昔よりも高い視点で俯瞰的に全体の変化を見られている感覚があり、「世の中の変化に合わせながら、経営の舵を切ることができている」という点にもホッとしています。

変化に気づけない、あるいは変化に反応できなくなったら社長を交代しよう」ということは決めていますが、それまでは頭のなかにあるいろいろなことをカタチにし続けていくことが、この先のキャリアのビジョンです。ニッチなビジネスをしていますが、興味を持ってくださる方がいれば、ぜひアプローチをしてきてほしいですね。

取材・執筆:外山ゆひら

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